この記事の結論
専門実践教育訓練給付金は、厚生労働大臣が指定した講座の受講費用を、最大80%(年間上限64万円)まで雇用保険から支給する制度です。ただし、大学院の課程であれば必ず対象になるわけではありません。給付の対象になるのは、厚生労働大臣の指定を受けた講座だけです。同じ大学院の課程でも、専門実践教育訓練(最大80%)と一般教育訓練(20%、上限10万円)のどちらで指定されているか、あるいは指定がないかによって給付は変わります。進学先の課程の指定区分を確認することが出発点です。
社会人が大学院進学を考えるとき、学費は最初に検討する項目のひとつです。その負担を軽くする代表的な制度が、雇用保険の「専門実践教育訓練給付金」です。「最大80%が戻る」と紹介されることの多い制度ですが、大学院で使う場合には、その前に確かめるべきことがあります。本記事では、制度の仕組みと、大学院進学で使うときに押さえるべき点を整理します。
1. 専門実践教育訓練給付金とは
専門実践教育訓練給付金は、働く人の主体的で中長期的なキャリア形成を支援する雇用保険の給付です。一定の条件を満たす在職者または離職者が、厚生労働大臣の指定する専門実践教育訓練を受講し修了した場合に、本人が教育訓練実施者に支払った教育訓練経費の一定割合が、ハローワークから支給されます(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
教育訓練給付金には3つの種類があり、それぞれ給付率が異なります(厚生労働省「教育訓練給付金のご案内」)。
| 種類 | 給付率と上限 | 対象講座の例 |
| 専門実践教育訓練 | 最大80%(年間上限64万円) | 業務独占資格などの取得を目標とする講座、専門職大学院の課程、職業実践力育成プログラム など |
| 特定一般教育訓練 | 最大50%(上限25万円) | 介護職員初任者研修、短時間の職業実践力育成プログラム など |
| 一般教育訓練 | 20%(上限10万円) | 税理士・社会保険労務士などの資格講座、修士・博士の学位などの取得を目標とする課程 など |
2024年9月までに受講を開始した場合、専門実践教育訓練は最大70%(年間上限56万円)、特定一般教育訓練は40%(上限20万円)です。対象となる講座は、3種類合わせて約17,000講座あります(厚生労働省「教育訓練給付金のご案内」)。
2. 大学院なら対象、ではない
ここが、大学院進学でこの制度を使う際に最も重要な点です。
厚生労働省のリーフレットでは、大学院の課程が2つの区分に分かれて記載されています(厚生労働省「教育訓練給付金のご案内」)。
- 専門実践教育訓練:専門職大学院の課程及び外国の大学院の経営管理に関する学位課程(法科大学院、教職大学院、MBAなど)、職業実践力育成プログラム(文部科学大臣認定)
- 一般教育訓練:修士・博士の学位などの取得を目標とする課程
同じ大学院の課程でも、どの区分で指定されているかによって給付は大きく変わります。専門実践教育訓練であれば最大80%、一般教育訓練であれば20%(上限10万円)です。指定を受けていない課程は、どちらの給付の対象にもなりません。
ただし、これは「専門職大学院なら専門実践、修士課程なら一般」という一律の区分ではありません。職業実践力育成プログラムの対象には、大学院の正規課程も含まれています(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。修士課程であっても、このプログラムとして認定・指定を受けていれば、専門実践教育訓練の対象になります。反対に、専門職大学院の課程でも、指定を受けていなければ対象外です。課程の種類ではなく、講座ごとの指定区分で判断する必要があります。
大学院に関係する指定講座の数
令和8年10月1日時点で、専門実践教育訓練の給付対象講座は3,485講座です。このうち大学院に関係する類型の講座数は次のとおりです(厚生労働省「専門実践教育訓練の指定講座を公表しました(令和8年10月1日付け指定)」)。
| 類型 | 講座数 |
| 専門職大学院の課程及び外国の大学院の学位の取得のための課程(ビジネス・MOT、法科大学院、教職大学院など) | 148講座 |
| 大学等の職業実践力育成プログラム | 242講座 |
職業実践力育成プログラムは、大学、大学院、短期大学及び高等専門学校の正規課程及び履修証明プログラムのうち、社会人や企業などのニーズに応じた実践的・専門的なプログラムとして文部科学大臣が認定した課程です(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。242講座には、大学院以外の課程も含まれます。
進学先の課程を確認する2つの方法
1つめは、厚生労働省の教育訓練給付金 厚生労働大臣指定教育訓練講座検索システムで講座を検索する方法です。
2つめは、ハローワークへの支給要件照会です。受講開始予定日時点での受給資格の有無に加えて、受講を希望する講座が厚生労働大臣の指定を受けているかを照会できます。照会票を住所を管轄するハローワークに来所・電子申請・郵送のいずれかで提出し、結果は回答書で通知されます。電話での照会は受け付けていません(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
なお、受講開始日は、その講座が専門実践教育訓練として指定を受けた期間内であることが必要です(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
3. いくら戻るか
支給は3段階で構成されています(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
| 段階 | 条件 | 給付率 | 年間上限 |
| 基本 | 受講中・修了 | 教育訓練経費の50% | 40万円 |
| 追加① | 修了後に資格を取得し、就職等した場合 | +20%(計70%) | +16万円(計56万円) |
| 追加② | さらに賃金が受講開始前より5%以上上昇した場合 | +10%(計80%) | +8万円(計64万円) |
基本の50%は、受講開始日から6か月ごとに支給されます。50%に相当する額が4千円を超えない場合は支給されません。追加②は、2024年10月1日以降に受講を開始した人に限られます(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
2年間の課程での支給例
厚生労働省は、訓練期間2年、入学料10万円、6か月ごとの受講料40万円の場合の例を示しています(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
| 期間 | 教育訓練経費 | 支給額 |
| 第1期(入学料含む) | 50万円 | 25万円 |
| 第2期 | 40万円 | 15万円 |
| 第3期 | 40万円 | 20万円 |
| 第4期 | 40万円 | 20万円 |
| 資格取得等した場合 | — | 32万円 |
| 賃金上昇した場合 | — | 16万円 |
| 合計 | 170万円 | 128万円 |
第2期が15万円になっているのは、第1期と合わせた年間支給額が上限の40万円に達するためです。追加分も、年間上限の2年分(32万円、16万円)が限度になります。
教育訓練経費に含まれるもの
支給の対象となる教育訓練経費は、入学料と受講料の合計です。検定試験の受講料、必ずしも必要とされない補助教材費、交通費、パソコンなどの器材の費用、クレジット会社への手数料、支給申請時点で未納の額などは含まれません。割引制度が適用された場合は、割引後の額が教育訓練経費になります(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
4. 追加給付の条件を、在職者の場合で確認する
追加①の「資格の取得」には、学位の取得等が含まれます(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。大学院を修了して学位を得ることが、追加給付の条件になり得るということです。
追加①は、専門実践教育訓練を修了してその訓練に係る資格(学位の取得等を含む)を取得し、かつ、次のどちらかに当てはまる場合に支給されます(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
- 修了日の翌日から原則1年以内に、雇用保険の一般被保険者等として雇用された
- 一般被保険者等として雇用されていて、修了日の翌日から原則1年以内に資格を取得した
追加②の賃金上昇は、在職者の場合、次の2つを比べて判定します(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
- 受講開始前:受講開始日の前日を離職日とみなした場合に算定される賃金日額に相当する額
- 修了後:資格取得日から1年が経過するまでの期間のうち、連続する任意の6か月間の賃金をもとにしたみなし賃金日額
修了後の額を受講開始前の額で割った値が1.05以上であれば支給されます。修了後の6か月間は本人が選び、事業主に証明を依頼します。
5. 受給要件
雇用保険の加入期間
受講開始日に雇用保険の被保険者である人は、支給要件期間が3年以上必要です。ただし当分の間、初めて教育訓練給付金を受ける人は2年以上あれば対象になります(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
支給要件期間は、受講開始日までに同じ事業主のもとで被保険者等として雇用された期間です。転職している場合も、前の雇用との空白期間が1年以内であれば、両方の期間を通算します(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
離職している場合
受講開始日に被保険者でない人は、離職日の翌日以降、受講開始日までが1年以内であることが必要です。妊娠、出産、育児、疾病、負傷などで受講が困難な期間が30日以上続いた場合は、ハローワークへの申し出により、この期間を最大20年以内まで延長できます(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
過去に受給したことがある場合
- 前回の受講開始日より前の被保険者期間は、支給要件期間に通算されません
- 今回の受講開始日の前日から3年以内に教育訓練給付金を受けている場合は、支給されません
- 10年の間に複数回受講する場合、給付の合計は192万円が限度です(最初の受給に係る受講開始日が2024年9月30日以前の場合は168万円)
(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)
6. 入学の2週間前までに済ませる手続き
この制度は、受講を始める前の手続きが必要です。順序は次のとおりです(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
- 訓練対応キャリアコンサルタントによる訓練前キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードの交付を受ける
- 受給資格確認票とジョブ・カードを、住所を管轄するハローワークに提出する(受給資格確認)
受給資格確認は、受講開始日の2週間前までに行う必要があります。郵送の場合も、受講開始日の2週間前までの消印が有効です。ジョブ・カードは、訓練前キャリアコンサルティングでの発行から1年以内のものが必要です(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
訓練前キャリアコンサルティングは、ハローワークやキャリア形成・リスキリング支援センターでも受けられ、オンラインでの受講も可能です。受給資格確認は、e-Govを利用した電子申請でも行えます(厚生労働省「教育訓練給付金のご案内」)。
受講開始日は、通学制の場合は教育訓練の所定の開講日で、必ずしも本人の出席1日目とはなりません。厚生労働省は受講開始日を受給資格の可否を決める重要な日付としており、受講の申込みは余裕をもって行うよう案内しています(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。大学院の開講日から逆算して、手続きの日程を組む必要があります。
7. 支給申請のタイミング
受給資格確認とは別に、支給申請が必要です。期限はそれぞれ異なります(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
| 申請 | 期限 |
| 受講中(6か月ごと) | 各期間の末日の翌日から1か月以内 |
| 修了時 | 修了日の翌日から1か月以内 |
| 資格取得・就職による追加 | 雇用された日(在職者は資格取得日)の翌日から1か月以内 |
| 賃金上昇による追加 | 雇用された日(在職者は資格取得日)の翌日から6か月を経過した日から6か月以内 |
賃金上昇による追加の申請には、事業主による証明が必要です(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
8. 会社の学費補助との関係
勤務先から学費の補助を受ける場合は、注意が必要です。事業主などが受講に伴い手当などを支給する場合、その手当のうち入学料または受講料に充てられる額は、教育訓練経費から差し引いて申請しなければなりません。教育訓練実施者などから経費の一部が還付される予定がある場合も、その額を差し引いて申告します(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
この扱いは、教育訓練休暇給付金とは異なります。教育訓練休暇給付金では、無給の休暇中に事業主から受講費用の一部補助などの手当が支給されても、就労の対価ではないため、それを理由に不支給にはならないとされています(厚生労働省「教育訓練休暇給付金のご案内」)。同じ「会社からの補助」でも、制度によって扱いが違います。
9. 受講中の生活費を支える2つの制度
専門実践教育訓練給付金は、学費の一部を支給する制度です。受講中の生活費を支える制度は、在職か離職かで分かれます。
在職のまま休暇を取る場合:教育訓練休暇給付金
就業規則等に基づき、30日以上連続した無給の教育訓練休暇を取得する場合に、基本手当に相当する額が支給される制度です。教育訓練休暇給付金を受ける際に教育訓練給付金の指定講座を受講する場合は、教育訓練給付金をあわせて利用することが可能とされています(厚生労働省「教育訓練休暇給付金のご案内」)。
教育訓練休暇給付金を受けると被保険者期間はリセットされますが、教育訓練給付金に係る支給要件期間には影響しません(厚生労働省「教育訓練休暇給付金のご案内」)。
制度の詳細は「教育訓練休暇給付金とは」で解説しています。
離職して通う場合:教育訓練支援給付金
専門実践教育訓練給付金の受給資格者のうち、一定の条件を満たして失業状態にある人に、基本手当の日額の60%に相当する額が支給されます。主な条件は次のとおりです(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
- 受講開始日に雇用保険の被保険者でないこと
- 受講開始時に45歳未満であること
- 夜間や通信制など、就業を継続しながら受講できる講座ではないこと
- 教育訓練給付金を受けたことがないこと(一部例外あり)
- 受講開始日が2027年3月31日以前であること
基本手当を受けられる期間は支給されません。また、欠席が多く、ある2か月の出席率が8割未満になった場合は、以後支給されません。2025年3月31日以前に受講を開始した場合の日額は、基本手当の日額の80%相当です(厚生労働省「専門実践教育訓練の『教育訓練給付金』のご案内」)。
10. まとめ|まず確認する3つのこと
- 進学先の課程の指定区分を確認する:検索システムまたは支給要件照会で、専門実践教育訓練・一般教育訓練のどちらで指定されているか、指定がないかを確認する
- 自分の加入期間を確認する:支給要件期間が3年以上(初めての人は2年以上)あるか。分からなければ支給要件照会で確認できる
- 開講日から逆算して手続きを組む:訓練前キャリアコンサルティングとジョブ・カードを経て、受講開始日の2週間前までに受給資格確認を済ませる